②うそでしょ? ここまで来たのに。

そして、いよいよ出発の日がやってきた。

ところが、マニラに嵐が来て飛行機が遅れた。

イライラして待っていると、Messengerが鳴った。同じトゥバタハクルーズに乗るフィリピン人ガイドのGさんだった。実はこのGさん、以前、ドゥマゲッティの方で、一緒に潜ったことがあったらしい。私はすっかり忘れていた。そして例のA氏の知り合いでもあった。

同じ船に知っている人がいる。

それだけでも心強い。たとえ、お目当てが私の壊れた水中カメラだったとしても(笑)。

フィリピンでは、壊れたものでも結構お金になるのだ。

だいぶ遅れたが、プエルト・プリンセサのホテルには無事到着した。

ホテルに着いたのは、日付が変わってから。ね、眠い……

そして翌朝。

9時11分。Messengerが鳴った。

船への集合は午後2時半の予定だった。

こんな朝早くに、いったい何の連絡だろう。

画面を見た。

「悪天候のため、船をキャンセルする」

え?

“Based on Typhoon [...] we have to cancel our tour.”

自分の目を疑った。

もう一度読む。

やっぱり、キャンセルと書いてある。

できれば、目の方が間違っていてほしかった。

5月11日に1980ドルを送金して、5月25日にキャンセル?

信じられない。

それどころか、わざわざ飛行機に乗ってここまで来て、ホテルに泊まって、翌朝になったらキャンセル?

なぜ、台風が近づいているから、キャンセルの可能性があると、一言でも言ってくれなかったのだ?

日本を出る前なら、打つ手もあったはずだ。

外を見る。

ピーカン。

雨一滴降っていない。

台風接近中のプエルト・プリンセサ。

陸上はこんなに平穏なのに、海は荒れているということなのか?

今までの私のダイビング人生が、幸せすぎたのだろうか。

覚えている限り、悪天候だったのは最初に行った慶良間くらい。それだって、雨が降って寒かった、という程度だった。

この時点では、何が本当なのか確かめようがなかった。

Dirkのオフィスまで会いに行くか、とも考えた。

しかし、ガイドGによると、彼のオフィスは自宅の中にあるらしい。自宅まで行くか?

ムクムクと湧いてくる疑惑。

ひょっとして、騙された???

まさか、私が騙された?

もちろん、この時点では何の証拠もない。

でも外は相変わらず、雨粒ひとつ落ちていない。

本当に海の方だけ天気が悪いのだろうか。

仕方ない。あとで港へ行ってみよう。

とりあえずFersalホテルをチェックアウトし、評判のいいHotel Fleuris Palawanに移った。

事情を話すと、ホテルの人たちは私に同情してくれた。

台風接近中の静かなホテルのプール。

この時ほど、お客さんがいなくてよかったと思ったことはなかった。

船は出ない。

理由は天候不良だという。

飛行機代は戻らない。

そして1980ドルの船代まで、返ってこないかもしれない。

もし、これがお客さんを連れた旅行だったら?

私はいったい、何と説明すればいいのだ。

ひょっとして、開業したばかりのペンギントラベルは、

絶対に頼んではいけない旅行代理店

なのではないか。

頭の中で、存在しないお客さんたちが騒ぎ始めた。

仮想客1

「船が出ない? 飛行機代はどうしてくれるんだ?」

仮想客2

「こんなにいい天気なのに、どこが悪天候なんだ?」

仮想客3

「金を返せ」

そして、いちばん胸に突き刺さったのがこれだ。

仮想客4

「だから、こんな小さな旅行会社になんて頼むんじゃなかったのよ」

すると、別の客が言い返した。

仮想客5

「だって、安いからお前がこっちにしようって言ったんじゃないか」

頭の中で、とうとう夫婦げんかまで始まった。

まだ一人もお客さんがいないというのに、クレームだけは満員御礼。

開業早々、ペンギントラベルは大繁盛である。

もちろん、売上はゼロだ。