①ハンマーとタイガー!!!
コロナが終わった。
やっと終わった。
なんの変哲もない日常よ、ようこそ。
海外に行ける。飛行機に乗れる。海に潜れる。
それだけで、もう十分だった。
しかも、この旅にはもう一つ、私にとって特別な意味があった。旅行業の登録を取ってから、初めての海外旅行なのだ。
まだお客さんはいない。
そこで、仮想客第一号は私。
自分で旅行を手配し、自分で行って、自分で確かめる。
ペンギントラベル、初の実地研修である。
どこへいこうかなあ。
FBをめくっていると、なんと知り合いのA氏が、フィリピンのトゥバタハ行きのクルーズ船に乗るというではないの。前年、コロナで乗れなかったクルーズの振り替えだという。
うらやましい。
トゥバタハリーフは世界自然遺産。ハンマーヘッド、タイガーシャーク、ジンベエザメなど、大物との遭遇が期待できる海として知られている。

潜るたびにジンベエが出る、という逸話にも事欠かない。
ワイド派の私には、たまらない海だった。
飛行機を調べた。
空いている。
日本からマニラを経由して、プエルト・プリンセサへ飛べばいい。
マニラからプエルト・プリンセサへは一時間強。
行けるではないか。
では、クルーズ船は???
ドイツ人の船主Dirkに問い合わせると、空きはあるという。
そのとき私が確認できたクルーズ船の中では一番安かった。
6泊7日、1980ドル。
安いのか高いのか。
いや、十分高い。
しかし、もっと深刻な問題があった。
キャビンである。
クルーズはこれまで、いつも一人での参加だった。
一人参加のキャビンには、運不運がある。

以前、日本人のショップを通じて乗った船が、本当にベッドのスペースしかないようなボロ船(しかも二段ベッド)だったことがある。
狭くて、畳一畳分の広さもないくらい。そこに丸まって体を休める。
一人で使うことはできたが、本当に狭かった。
広大な海の上にいるというのに、なぜ蛸壺に入らなければならないのだろう。私はタコではない。
そんなある日、後から参加してきたフランス人のお姉さんが、私の二段ベッドの下段に押し込まれそうになった。
他には空いているキャビンがいくつもあるというのに、である。
私はまだ上段だからましだが、彼女には気の毒だった。
二人で苦笑いした。
ところが、後で部屋に戻ると、彼女の荷物が消えていた。
なんと、キャビンを替えてもらったという。
「なんて言ったの?」
「閉所恐怖症だから、って」
なるほど。その手があったか!

それ以来、私も閉所恐怖症になった。
そして、予約の段階からキャビンの希望を伝えておくようになった。
もちろん、空き状況しだいなので、最後は運任せになるのだけど。
港に戻ってきた知り合いのA氏から、早速メッセンジャーで連絡があった。
レンジャーステーションで寝ることになり、ダイビングも10本に削られたという。
海況が悪く、船は海上にとどまれなかったらしい。その代わり、二日間はトゥバタハを貸し切り状態だったそうだ。
でも、送ってくれたビデオには、さすがトゥバタハと思える映像が映っていた。
「Wifiも使えないし、積極的にはおすすめできません」
とも言われた。
実は、この少し前、セブから来たクルーズ船Dream Keeperが沈没し、4人が行方不明になる事故が起きていた。
でも海況ばかりは、予見できない。
以前、タイのアンダマン海でシミランクルーズを終えた翌日のことだった。
ホテルのボーイが、降り出した雨を見て「この時期には珍しい」と話していたのを覚えている。2月、3月のベストシーズンと言われている頃だった。
その夜、思いもよらない事故が起きた。
前日まであんなに海況が良かったのに、嵐が来て、ダイブアジアⅠ(MV Dive Asia I)というすごい豪華なクルーズ船が沈んでしまったのだ。
事故はある意味、ダイビングの付属品なのだ。
そんな中、Dirkから連絡があった。
A氏が、私にいいベッドを用意してくれるよう、Dirkに頼んでくれていたという。
これは心強かった。Dirkが聞いてくれるといいが。
そこで私は、送金する前に、A氏が泊まっていたのと同じ上のキャビンを使えるのか確認した。
Dirkの返事はOK。
アッパーキャビンをもらえるかも!
ただし、二段ベッドで誰かとシェアする可能性はある。それでも、下のキャビンよりは居心地がよさそうだ。
一人で使えたら最高だけど、そこまでの高望みはしないでおこう。
二段ベッドは地獄でも、これくらいの二段ベッドなら耐えられそうだ。なんといっても、トゥバタハ様なのだ。

というわけで、私にとって大問題だったキャビンの問題も、ひとまず片付いた。
ただし、1980ドル。
高い。
うんうん悩んでいると、Dirkから連絡が入った。
「今日までに最終回答がほしいんだけど、どうなりそう?」
そして、送金するかどうか迷っていた、まさにその時だった。
「ファーストダイブでハンマーとタイガーが見られたって、船から連絡があったよ」
“they already saw Hammerhead and Tigershark on their first dive”
ハンマーとタイガー!!!
一瞬、釣られているのかと思った。だが、賭けなくては何も見られない。
即決。

「今GWで送金できないから、GW明けに送金します」と返事。
私は長年、特許事務で外国送金をやってきた。
海外送金には慣れている。
それが災いした。
2023年5月11日。
Wiseを使って、あっという間に送金完了。
1980ドルが海の向こうへ飛んでいった。
そして、間に合ってしまった。
そして、それは------
楽勝の旅行のはずだった。

