ペンギントラベルができるまで②――すべては名前から始まった
国内旅行業務取扱管理者・総合旅行業務取扱管理者の合格証

自分で言うのもなんだけど、試験運は結構ある方だ。今回も両方一発で通った。
ただし、男運はない。
だけど、その二つの合格証を見ても、どうにもピンとこない。
旅行業というのは、なかなか複雑怪奇な仕組みになっている。
旅行業には、第一種、第二種、第三種、そして地域限定旅行業がある。
まず、ざっくり図にすると、こうなる。

ざっくり言えば、第一種はJTBやHISのような大手旅行会社。第二種は、国内ツアーを全国で企画できる地域の旅行会社やバス会社。そして第三種は、ペンギントラベルのような零細事業者である。
私が選んだのは、第三種だった。
というより、私のような個人に、第一種や第二種という選択肢はほとんどなかった。
登録に必要な基準資産額は、第一種が3,000万円、第二種が700万円、第三種が300万円。
さらに、旅行業協会に入らない場合は、第一種7,000万円、第二種1,100万円、第三種300万円の営業保証金が必要になる。
ペンギントラベルが第三種を選んだのは、第一種や第二種より必要な資金が少なく、しかも海外旅行を扱えるからである。
第三種では、自社で海外旅行を企画して、広く参加者を募集することはできない。
でも、お客さんの注文を受けて作る海外旅行や、航空券、ホテルなどを手配する海外旅行は扱える。
つまり第三種でも、海外旅行はできるのである。
はて??????
この二枚の紙切れで、旅行業が始められるのだろうか?
私は旅行業についてはド素人である。
大学を出てからやったことといえば、出版社の総務と、派遣と、特許事務だけ。
サービス業さえやったことがない。
通訳案内士の試験にも通っている。
だけど、度胸と英語力が足りず、いまだ実践に出たことはない。
でも、そんな私にも旅行業はできるというのだ。
資格とお金さえあれば。
必要な金額を見ると、第三種であれば、出せない額ではない。
一時は隆盛を極めた勤務先の特許事務所も、今や虫の息。
かといって、ほかの特許事務所に行く気もない。
安いぼろマンションだけど、家も買ってある。
子どももいない。
お金はそんなにいらない。
――ハズ。
心はじわじわと開業に傾いていった。
今でも思う。
何が決定的だったんだろう、と。
ある日、仕事をしていると、
「ペンギントラベル」
という名前が閃いた。
その名前を思いついた瞬間、頭の中でペンギンが飛んだ。
飛べないペンギンが、飛んだのだ。
たぶん、あれが決定打だったのだ。
もちろん、ほかの名前も考えてみた。
ネコが好きなので、黒猫トラベル。
プーマトラベル、チータートラベル、ライオントラベル、黒豹トラベル、タイガートラベル。
どれもしっくりこない。
かといって、マンタトラベルもシャークトラベルも、可愛くない。
多分、ほかの名前だったら、開業なんて考えなかったと思う。
さっそく、東京都に問い合わせたところ、「ペンギントラベル」という名前は使われていないので、使ってもいいという。
よし。
名前は決まった。
弱小ペンギン、サンスターと戦う
ところが、ここで問題が起きた。
商標である。
元私のボスである、商標に弱い弁理士(本人談)に聞くと、念のため商標も取っておいた方がいい、ということになった。
商標出願なら、特許事務をやっている私にはお手のもの。
どんなサービスにその商標を使うのかさえ決めてもらえれば、あとは誰も同じような商標を持っていなければ、素直に登録される。
――はずだった。
ところが、まさかの拒絶理由通知が届いた。
拒絶理由通知とは、特許庁から届く「このままでは登録できません」というお知らせである。
しかも、そこに出てきた商標の持ち主は、
サンスター。
🐧「え?」
相手はサンスター。
🐧「歯磨きの!?」

なぜサンスターが、ペンギントラベルを?
どうやらサンスターはペンギンを商標として使っていたため、旅行関係のサービスでも商標を取っていたらしい。
実は、出張の手配などのため、社内で旅行業務を扱っている会社はたくさんある。
しかし、まだ手はあった。
登録から一定期間が経過した商標が実際には使われていない場合、「不使用取消審判」という手続きで、その登録の取り消しを求めることができる。
そこで、こちらは賭けに出た。
取消審判を請求した。
どうぞ、サンスターが使っていませんように。
毎日祈った。
特許事務所に長くいた私でも、取消審判を実際に扱うのは初めてだった。
しかし、サンスターさんは審判で争うことなく、商標を譲ってくださった。
しかも、審判にかかった費用まで負担してくださったのだ。
すったもんだの末――
「ペンギントラベル」は、晴れて私の商標になった。
特許事務所に勤めていてよかった――と思ったのは、後にも先にも、この一回だけ。
→ 飛び立てるの?

